
ホテル業界で働きたい方が知っておいた方が良い知識の1つに、「ホテルの経営形態・運営形態」があります。
日本では、ホテルビジネスはサービス業として分類される事が多いですが、海外ではホテルビジネスを不動産投資や金融商品など高収益な収益物件として分類される事が多くなっています。
そのため、日本と海外とではホテルの運営形態にも違いがあります。
近年の日本では、外資系ホテルの開業が相次いでいますが、日系ホテルよりも、外資系ホテルの出店スピードが早い理由の1つに経営形態の違いがあるからです。
そこで今回は、ホテルの経営形態の種類や運営形態の違いやそれぞれのメリット・デメリットをご紹介していきます。
ホテルの経営形態の種類
ホテルの経営形態は主に2つに分類されます。
①単独型経営
ホテルの所有・経営・運営をまるごと行う
②チェーン型経営
ホテルの所有・経営・運営が分離している
①単独型経営
「単独型経営」とは、ホテルの所有・経営・運営が同一の法人、もしくは個人で行っている経営形態になります。
オーナーが組織・体制を作り上げ、経営から運営まで実行するもので、ホテル経営の基本の形ともいえます。
単独経営の代表的なホテルは、帝国ホテル・プリンスホテルなどです。
その他、個人経営のペンションや民宿・温泉旅館などもあります。
②チェーン型経営
「チェーン経営」とは、ホテルがチェーン展開され、ホテルの所有・経営・運営が分離している経営形態の事です。
コンビニや飲食業界などと同様、複数の施設をチェーン化する事で、それぞれの分野のプロが担当する事となり効率的なホテル経営が可能になります。
ホテル業界のチェーン経営は、下記で詳しく説明していきます。
ホテルの運営形態の種類
前述したように、ホテル運営には複数の運営形態があり、主に下記の4つに分かれています。
①所有直営方式
②リース方式
③運営委託方式(MC方式)
④フランチャイズ方式
①所有直営方式
所有直営方式は、「所有・経営・運営」全てをホテルが行う方式。
ホテルの所有者が自ら経営から運営まで行う経営形態であり、日本国内では最もオーソドックスな方式となっています。
日系の大手企業や老舗ホテル、鉄道系・航空系など資金調達に優れた企業がこの方式でホテルを運営しています。
その他、個人経営の温泉旅館や民宿・ペンションなどでも所有直営方式を採用しているところがあります。
<★所有直営方式のメリット>
①経営者・運営者が不動産所有者であるため固定資産を多く所有している
②社会的信用が高く、銀行などから融資を受けやすい
③利用者や時代のニーズの変化などに素早く対応・意思決定ができる
④柔軟に経営判断がしやすく経営が安定する
⑤責任の所存が明確
⑥利益が出れば全て自社のものとなる
<★所有直営方式のデメリット>
①大きい企業でないと土地・建物の購入費用や維持費用などが難しい
②不動産を購入・所有し続ける必要があるため、豊富な資金が必要となる
③経営状態が悪化すれば収入も下がってしまう
④失敗した際のリスクが大きい
⑤急速なチェーン化は難しい
<所有直営方式のホテル例>
・帝国ホテル
・ホテルニューオータニ東京
・ホテルオークラtokyo
・プリンスホテル
・ホテル椿山荘東京
②リース方式
リース方式(賃貸)は、土地や建物の所有者からホテル直接賃貸し、運営・経営する形式のもの。
「所有」のみ行い「経営」「運営」は他社に任せます。
そのため、運営会社は、ホテル運営に必要な備品や什器などの購入、開業に必要な資金や運転資金は必要になります。
土地の建物や所有者は、不動産会社や鉄道会社などの大企業が多く、日本のホテル会社との間で多く採用されている方式です。
運営会社はホテルオーナーである所有者に賃料(リース料)を払い、ホテルの経営と運営に特化します。
外資系ホテルブランドはこの契約形態を基本的には好まなく、主に日本でチェーン展開しているビジネスホテル等で多く採用されています。
また、親会社が持つ土地や建物をホテルの運営に特化した子会社がリースするケースも多くなっています。
<★リース方式のメリット>
①所有者はホテルの収益状況とは無関係に定期的なリース収入を得られる
②運営会社にとっては、土地・建物の購入など初期投資のコストを軽減できる
③運営会社は、不動産を購入・建設、ホテル運営に準備する資金がなくても始めやすい
④開業する際のハードルを下げられる
⑤短期間でのチェーン展開が可能
<★リース方式のデメリット>
①売上に関わらずオーナーが得られるリース料金は変わらない
②ホテルの収益状況が悪化してもリース料金を支払わなければならない
<リース方式のホテル例>
・東横イン
・ホテルルートイン
・リッツ・カールトン東京
・シャングリラ東京
・ペニンシュラ東京
・マンダリンオリエンタルホテルグループ
③運営委託方式(MC方式)
土地・建物を所有するオーナー会社がホテル運営の専門会社に運営を委託している方式。
実務上は「所有・経営」を担う会社が、ホテルの「運営」の部分だけを別の会社に委託するパターンが主流。
MC(マネジメント・コントラクト)方式とも呼ばれ、外資系のラグジュアリーホテルの大半はマネジメント契約方式となっています。
「所有」「経営」を担うオーナー会社は、「運営」を委託する代わりとして、「運営」を担うホテルに運営委託料を支払い、運営を担うホテルはオーナー会社に人材を派遣したり、運営ノウハウを提供します。
MC方式ではホテルの所有者と経営者は同一の場合が多いですが、異なる場合もあります。
<★運営委託方式のメリット>
①オーナー会社は、運営ノウハウを持つ運営会社に任せる事で経営負担を軽減できる
②運営会社は、土地・建物などの設備投資の負担が軽減できる
③ホテルブランドに属する事で総支配人等の派遣スタッフやノウハウを得る事ができる
④ブランドの運営ノウハウの享受により高度なサービスの提供、ブランドの持つ世界中のVIP客を招く事ができる予約システムの利用などが可能となる
⑤運営会社は安定した運営委託料を受け取れる
※特に外資系ホテルと契約を結ぶと、世界で培ってきた様々な運営ノウハウが蓄積されているため、日本のホテル企業では絶対手に入らないものです。
世界の進行している、最新のマネジメントを学ぶ事ができる環境で働けるのは大きなメリットです。
<★運営委託方式のデメリット>
①関係者が多くなるため、利害が対立してしまう事がある
②オーナー会社は、ホテルの最終的な経営責任は負わなければならない
③オーナー会社がホテル事業から撤退する場合、運営会社はホテル運営を継続できない
④赤字であった場合でも運営委託料を支払わなければならない
<運営委託方式のホテル例>
・オークラホテルズアンドリゾーツ
・星野リゾート
・ニッコー・ホテルズ・インターナショナル
・ホテルJALシティ
・ハイアットホテルズコーポレーション
④フランチャイズ方式
FC契約は、飲食店やコンビニエンスストアなどと同じフランチャイズ契約を指し、ホテル業界でも一般的に取り入れられています。
「所有」「経営」「運営」を行い、「ホテルぺレーター」のみ他社に任せます。
フランチャイズ方式とは、所有直営方式のホテルが、ブランド力のあるホテル(チェーン本部)が保有するブランドやノウハウを活用してホテル運営を行う経営形態です。
FC契約を結ぶ事により、加入者は、経営ノウハウの享受・ホテル予約システムなどが利用・ブランド名の使用が得られ、本部に加盟料(ロイヤリティ)を支払う方式となっています。
経営に自由度がある反面、ブランド側の支援は少なくなります。
また、経営の自由度が高い分、高級なブランドになるほどFC契約は締結しない傾向がある。
<★フランチャイズ方式のメリット>
①ビジネスモデルを提供してもらえるため、ホテル運営に慣れていない企業でも経営しやすい
②ブランド力や経営ノウハウ・スタッフの教育制度など、ホテル運営に必要なリソースを利用できる点
③本部の強力なバックアップ体制やサポート体制があり、安心してホテルの運営ができる
④知名度があるため集客しやすい
⑤加盟店のオーナー同士での繋がりがある場合は心強い
<★フランチャイズ方式のデメリット>
①売上に関わらずチェーン本部にロイヤリティを支払う必要がある
②加盟金がかかる事がある
③商標やブランド・マニュアルを使用するため運営の自由度が低い
④オリジナルでホテルを作り上げていきたい人には向いていない
⑤自分都合で自由に廃業できない
<フランチャイズ方式のホテル例>
・アパホテル
・ホテルサンルート
・スーパーホテル
・ハイアットリージェンシー東京
・シェラトン都ホテル東京
まとめ
近年のホテル業界では、ホテルをより高収益な収益物件として経営する考え方が広まりつつあります。
日本では、「サービス産業」「体験価値提供産業」など、ホテル業をおもてなしや社会的信用といった無形資産の価値に重きを置く傾向にあります。
しかし、世界的に見ればホテルは「装置産業」と捉えられ、建物としての資産であり、その家賃収入を目的とした金融商品というような見方がされているケースも多いのです。
そのため、ホテル事業における「所有」「経営」「運営」それぞれの役割について、得意とする会社で分担するホテルが多くなっています。
ホテル経営は、不動産投資という側面を持っており、外資系ホテルの大半は管理運営受託方式の場合が一般的となっています。
日本では、所有直営方式、もしくはそれに近い形態で自ら所有・経営・運営をしていましたが、上記のような変化に伴い、それぞれの三者の役割を分担する運営委託方式(MC方式)が増えてきています。
現在の日本では、サービス業としてホテル事業を展開している企業が多くなっていますが、今後の日本のホテルの運営形態が変化していくという可能性も考えられるでしょう。
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2025.02.10